地代等の供託について
地代等の供託について
元橋 一郎
1 供託原因の必要性
地代や家賃を有効に供託するには、供託原因が必要です。
地代等の弁済に関する供託原因は、民法494条に記載されています。
(供託)
第四百九十四条 弁済者は、次に掲げる場合には、債権者のために弁済の目的物を供託することができる。この場合においては、弁済者が供託をした時に、その債権は、消滅する。
一 弁済の提供をした場合において、債権者がその受領を拒んだとき。
二 債権者が弁済を受領することができないとき。
2 弁済者が債権者を確知することができないときも、前項と同様とする。ただし、弁済者に過失があるときは、この限りでない。
以上の条文にある、受領拒絶、弁済不能、債権者不確知のいずれかがないと、供託としての効力はありません。
つまり、地代等の値上げを通告されて納得いかないとか、更新で揉めているとかは、それだけでは、有効な供託とはなりません。
2 供託の前提となる債務の特定
弁済の提供をする際には、後で供託の効力を争われないように、地代等の支払いの根拠である賃貸借契約書の内容を確認し、債務の内容を特定にしておく必要があります。
例えば、賃貸借契約書で、翌月分当月末払いとなっている場合は、2月分の地代等を、1月末までに支払う必要があるので、以上のとおり、1月末までに弁済の提供をして供託します。その後は、毎月末に、供託を行います。面倒だからと言って、勝手に、1年分を供託するようなことはしないでください。
また、地代等の対象物件の所在地を間違えたり、土地賃貸借と記載するところ建物賃貸借と記載したりすると、後日、供託の効力を争われることがありますので、正しく記載するようにしてください(総合して、単なる誤記であり、当該物件の地代等の供託であると認められる可能性はありますが、無用な争いをさせないため)。
債務の内容が特定できていることを前提に、以下のとおり、弁済の提供をします。
3 原則、債権者宅で現実の提供が必要
実際上、地代等では、弁済の提供をして、拒絶されなければ、有効な供託原因とはなりません。
そして、「弁済の提供」は、民法493条に定められています。
(弁済の提供の方法)
第四百九十三条 弁済の提供は、債務の本旨に従って現実にしなければならない。ただし、債権者があらかじめその受領を拒み、又は債務の履行について債権者の行為を要するときは、弁済の準備をしたことを通知してその受領の催告をすれば足りる。
また、金銭債権は、銀行振込(民法477条)等の特約がない限り、金銭債権は債権者の現在の住所(民法484条1項)で、慣習での取引時間内に(同条2項)持って行くことが必要です。
要するに平日昼間に地代等の額相当の現金を地主等の住所地に持って行って受け取ってもらえない、ということが必要です。
ただし、地主が、「新地代でなければ受け取らない。」と言っている場合は、「いついつまでに支払うから、口座を通知するか、受け取る旨連絡してほしい。」と通知して、回答がなければ、有効に供託できます。しかし、この方法は、あらかじめ受け取らないことの記録が存在するのか、通知の記録は存在するのかどうか等の問題があります。
以上まとめると、地代の供託原因は、次のとおりです。
1 ●年●月●日●時●分頃、債権者住所地において現金●●円を持参して弁済しようとしたが、受領を拒絶された(念のため、地主等の自宅付近で、持参者の顔を含めた日時入の写真をとっておいてください。)
2 地代等の受領をあらかじめ拒絶されたら、●年●月●日に支払いの準備をしたことを通知してその受領の催告した(通知書の控えを保管ください)
4 補足
現金を持参した際、地主等が不在であれば、受取拒絶と評価できると思います。しかし、地主等に現金を持参する前に電話する必要があるか、原則必要ないと思いますが、微妙な要素はあります。
現金を支払うとき、弁済と引き換えに受取証書の交付を請求できます(民法486条1項)。このため、領収書をあらかじめ作っておいても、現金と引換に地主がサインしないときは、弁済を拒絶されたものとして、供託できます。
なお、地主側家主側にたった場合、地代等を供託されても、還付手続き等の面倒が増え、借地人借家人の都合で取り戻されて損が残る可能性もあるだけで、得るものはありません。供託されるよりは、「異議をとどめての振込を認める。」として、とりあえずは振り込ませた方がよろしいかと考えます。
以上